
本記事は、全国のコワーキングスペース運営者・関係者がリレー形式で投稿する「コワーキングスペース Advent Calendar 2025」企画にお誘いいただき、投稿させていただくことになりました。
そのため、今回はコワーキングスペースの施設運営者の方や、これから経営・運営をお考えの方に向けたコラムとなっております。
当社がコワーキングスペースを長年運営してきた中で得た気付きや抱えた悩み、施設を運営継続することへの信念…等をご紹介しています。
ご興味がございましたら是非ご一読ください。
目次
1.コモンルームについて

本題に入る前に、まずは弊社<共栄商事株式会社(大阪市北区)>が運営する「コモンルーム」について前書きさせていただきます。
コモンルームのサービス形態は、コワーキングスペース・シェアオフィス・レンタルオフィス・バーチャルオフィス・貸会議室・レンタルスペースです。(一部店舗では提供していないサービスもあります。)
弊社は、2013年9月に大阪市北区・中津エリアにて1号店となる「コモンルーム中津」の運営を開始しました。
中津店のオープン当時は、フリーアドレス制のコワーキングスペースと固定席制のシェアオフィスの2フロアのみでのスタートでした。本当にありがたいことに徐々にご利用者様も増え、個室のレンタルオフィスフロアや貸切利用ができるレンタルスペースフロアの増床を少しづつ繰り返し、今では計6フロアの複合オフィスに至りました。
そして、2019年には大阪市北区・梅田エリアにて「コモンルーム梅田」を、2021年には京都市・下京区にて「コモンルーム四条烏丸」をオープン。現在は大阪・京都で3店舗の運営をしています。
苦難も多くありましたが、お陰様で少しづつお客様に認知していただくことができ、年間のご利用者数は全店舗合計で10,000人(*1)を超える規模となりました。
今回はコワーキングスペース運営者のアドベントカレンダー企画の趣旨に則り、主に「コワーキングスペース」の運営の部分にフォーカスして、これまでの12年の運営の中で直面した悩みや気付きをご紹介していきます。
*1、ドロップイン(一時利用)のお客様はリピート顧客を含む。月額会員のお客様は1人1カウント。
2.コワーキングスペース運営で悩んだこと

コワーキングスペース運営のノウハウについては、最近では多くの記事や経営学習コンテンツが出回っていますので、基本的な部分は是非そちらをご覧ください。
本項では、弊社がコモンルームのコワーキングスペース運営において特に悩み、壁にぶつかったポイントを4つに絞ってご紹介します。
ただ、これらは運営者なら一度は通る道だと思いますので、改めて大げさに書く程の内容ではないかもしれません。不要な方は読み飛ばしていただけますと幸いです。
2-1.売上が急激に伸びない焦り
「店を開ければ人が来る」ということはまずありません。コワーキングスペースは、WEBサービスのように一夜にして爆発的にユーザーが増えるモデルではないです。
認知を広げ、信頼を積み重ね、利用者数が損益分岐点を超えるまでには、どうしても長い時間が必要です。この「積み上げの期間」をどう耐え抜くか、理想と現実のギャップに対する焦りは、初期の大きな悩みでした。
また、当初から分かってはいたものの、ある程度の売り上げに達した段階に入るとストックビジネスの性質上の限界にも直面します。つまり、施設の席や個室数のキャパシティーを超えて大きく売上を伸ばすことができないのです。
様々な工夫を凝らしチャレンジするものの、そこまでの結果を伴わなかったり、見込みはあっても非常にゆっくりとした速度感だったりしたため、ここでも理想と現実のギャップを感じていました。これは悩みというよりは、諦めがつかなかった故のジレンマかもしれません。
2-2.イベント継続の難しさと属人化問題
コワーキング業界には、「コワーキング=交流・イベント」という定説があります。私たちも中津店において様々な企画を行いましたが、イベントの継続は非常にカロリーが高い業務でした。
なんとか毎週1本のイベント開催頻度までには達しましたが、どうしても頻度を上げるとイベントの質が保てず、次第に開催すること自体が目的になってしまっていきました。
そこで、一時は「開催本数は月1~2本程度に絞り、質を伴ったイベントにする」という方針へ転換しました。
しかし、イベントでコミュニティを盛り上げようとすればするほど、その熱量は「特定のスタッフ(業界ではコミュニティマネージャーと言われている人)」に依存しがちになります。
「その人がいないと回らない」という属人化も、組織として店舗展開をしていく上で大きなリスクであり課題でした。
後述しますが、この経験を経て、最終的に弊社では「店舗でのイベント開催はやめる」という決断に至りました。
2-3.ここは誰のためのオフィスなのか?
運営を続けていく中で社会も目まぐるしく変化し、店舗としてのブランドアイデンティティの迷いも生まれました。
「起業家を生み出すインキュベーション施設なのか?」
「あくまで場所を提供するインフラなのか?」
ここを曖昧にしたままでは、サービスの方針が定まりません。
最終的に私たちが立ち返ったのは、「本業に集中したいお客様に対し、オフィスを提供し続けることが一番の責任である」という原点でした。
ここの判断は事業形態や組織のバックボーン等で大きく判断が変わってくるかと思います。
弊社も、もしコワーキングスペースだけを運営している組織であれば、別の判断をしていたかもしれません。
2-4.コワーキングスペースには活発なコミュニティが無いといけないのか?
コワーキング業界には「ただの場所貸しは悪である(コワーキングスペースにコミュニティは必要)」という風潮が少なからずあります。
コワーキングスペースの運営において、「コミュニティ作り」は間違いなく1つの正解です。
筆者自身も、コミュニティが活発で熱量の高いスペースを大変リスペクトしています。
ただ、今の私たちは、コワーキングスペースは「ただの場所貸し事業」という認識でも1つの正解だと考えています。
というのも、そもそもコミュニティには濃淡があり、人が集まる空間には必ずコミュニティが存在すると考えているからです。極端に言えば、無人運営の店舗でも人が集まる空間が作り込まれていれば立派なコワーキングスペースだとさえ思っています。
(挨拶や会話が生まれる仕掛け等、一定の着火剤になる仕組みは必要かと思います。)
この考えに至るまでに、私たちも「結局、活発なコミュニティを作り込めていない自分たちがやっていることはただの場所貸しなのではないか?」と自問自答した時期がありました。
ですが、私たちの結論は、できるだけ「多くの人が集まる空間をつくること」にこだわるべきで、コミュニティの有無に最初からこだわるべきでは無いという考えです。
こちらが無理にコントロールしようとしなくても、母数(利用者数)が増えれば増えるほど、挨拶が生まれ、会話が生まれ、次第にたくさんのご縁が紡がれていきます。
コミュニティの有無を分かりやすく表現するには一定の仕掛けや、コミュニティマネージャーの存在が必要なことは十分理解していますが、無理に焚きつけるのではなく、まずは自然発生さえ出来得る土壌から作ることこそが、私たちなりの答えでした。
3.やらないことを決めた「背伸びしない」運営論

前項の悩みを経て、たどり着いたのが取り組む事を絞り、やらないことを決めることでした。ビジネス書では当たり前のように書かれている「選択と集中」ですが、実際に現場で「あれもこれもやらない」と決断するのは本当に難しいことです。
弊社が決めたことは以下の2点です。
【1】施設運営の継続にこだわる
働いている方にとって、自身の活動拠点が突然なくなるということは死活問題です。住所利用をしていれば名刺やHPの変更が発生しますし、法人登記をしていれば移転登記の手続きも必要になります。
何よりも、自分が気に入って選んだ場所がなくなるのは、理屈抜きで寂しく辛いものです。
コロナ禍で閉業に追い込まれたコワーキング施設の運営者様とお話しをした際、「オフィスを維持できないことが、本当にお客様に申し訳なかった」という声が一番切実でした。
だからこそ弊社は、派手な施策よりも「まずは施設を長きにわたって継続していくこと(閉業しないこと)」にこだわり、継続のために優先順位が低いものは、今は取り組まないということを決めました。
【2】快適な空間づくりに徹底的にこだわる
リソースを分散させない分、空間の質には徹底的にこだわりました。
インターネットの通信速度、空調の効き具合、清掃の行き届いた清潔さ、そして仕事に集中できる「適度な活気(静寂すぎず、騒がしすぎない環境)」。
イベント運営に割いていたパワーを、これら「当たり前の快適さ」を維持・向上させることに全振りしました。
社員やスタッフの育成にも、改めてかなり力を入れました。
これらの「背伸びしない」方針を打ち出した結果、ご意見もたくさん…、本当にたくさんいただきました。
「もっと交流会をしてほしい」「ドライすぎる」「最近雰囲気が変わってしまって残念」といったお声をいただき、実際に離れていってしまった会員様もいました。
当時はお客様が離れていくのが本当に辛いものでした。
ただ、それでもブレずにこの方針を継続することで、私たちのスタンスに共感してくださる「静かに集中したい」「適度な距離感が心地よい」というお客様が少しずつ集まってくださいました。
結果として売上は安定し、新店舗への展開や、さらなるサービス向上の検討ができる好循環が生まれ始めています。
4.コミュニティの濃淡について

最後に少し話が戻りますが、今回は「コミュニティが活発ではないスペース = 良くないスペース」なのかと言うと、そうではないということを、総括としてお伝えしたい次第です。
コミュニティには「濃淡」があって良いはずです。
プライベートな相談も飛び交う「濃い」コミュニティもあれば、仕事の合間に挨拶を交わしたり、困った時に少し仕事の相談ができたりする「淡い」コミュニティもあります。
私たちは、コミュニティを無理に濃くしたり見える化したりするのではなく、この「濃淡のちょうど良さ」にこだわっていきたいと考えています。
もし今後さらに多くの利用者様と接点を持つことができた際にも、背伸びをせず、皆様にとって心地よい「ちょうど良い距離感のインフラ」であり続けたいと考えています。
みんなが集う共同のオフィスだからこそ、「一人ひとりの居心地」にも徹底してこだわり抜く。
そして、誰もが安心して集中できる快適なワークスペースを提供していく。
この想いを忘れず、願わくばできるだけ多くの方のコミュニティの土壌となっていきたいものです。
5.おわりに
ここまでお読みいただきありがとうございました。派手な成功法則ではありませんが、12年間現場で悩み、積み上げてきた私たちのリアルがどこかの運営者様のヒントになれば幸いです。
他の施設さまの記事も、素敵な想いやノウハウがたくさん詰まっていますのでご興味がある方は是非「コワーキングスペース Advent Calendar 2025」よりご覧ください。

コモンルームは≪大阪市北区/京都市下京区≫にある、コワーキングスペース・レンタルオフィス・シェアオフィス・貸会議室です。
ドロップインでのご利用、定額プラン、バーチャルオフィスプランなど複数のプランをご用意しております。
お仕事や作業、商談や面接場所を≪梅田駅、大阪駅、中津駅周辺≫ ≪四条駅、烏丸駅、五条駅周辺≫でお探しの際は、お気軽にお越しください。
コモンルーム梅田
〒530-0012 大阪市北区芝田2-8-11 共栄ビル3F(受付)
TEL:06-6940-7143 / FAX:06-6940-7144
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コモンルーム四条烏丸
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